早朝五時。
昨晩一睡もせず、眩しい朝日の中、虫コロリを片手にフラフラと住宅街を彷徨い、
これから自宅のベッドで眠る直前だが、これまでの経緯を書いておくことにする。
ここ数日間のムカデとの戦いに、ようやく光が見えて来た。
思いおこせば先週の金曜の夕方、うちの壁についていた何十匹の小さいムカデから、こんなことになろうとは思いもしなかった。
いつものように、無用に長い日記になりそうなので、
要点をまとめることにする。
(すいませんまとめようと思ったけど、後半全然長い。)
全ての原因はうちにあった。
つまり、うちの米びつから発生していたのである。
あの数百匹のムカデファミリーは。
先月、米がなくなり、実家に電話して、無農薬栽培の米を送って貰った。
継母の知人である広島の農家のお米が、去年送って貰って美味しかったから。
当然去年はこのようなことは起きていなかった。
しかしその軽い気持ちで頼んだ米こそが、全ての発端だった。
よもやあのうまい米からこのような凄惨な現場が関わってくることに
なろうとは農家の皆さんも知る由もないだろう。
※ここから書く話は、軽く夏のホラーなので、
虫嫌いの方、また食事中の方などは避けて下さい。
6/6(金)雨
夕方、自宅の壁に大量の小さなムカデを発見する。
何故か二階のうちの壁だけなのを不思議がる。
ぞっとし、恐怖に震えるが何も出来ない。
6/7(土)雨
夢だと信じたかったが、血も涙もない現実だと諦め、不動産に電話。
素早く不動産のおじさんが来て神器、"虫コロリ"を無償でくれる。
電話してみるもんや〜、とちょっと安心する。
しかしその後、ムカデの発生場所が、玄関側だけでなく、
ベランダ側の壁にも広がっていて、
思わず涙ちょちょぎれそうになる。
6/7(日)雨
虫コロリの威力すごい!
万能感に酔いしれる。
昨日まであんなに怯えていたのに、あっという間に「ひーっひっひ死ね死ね〜」とムカデをガンガン殺しまくるように。
無垢な少女が数時間でえげつない大人になる瞬間を、自分の中に見た。
みるみる地面が凄惨な殺戮現場に。まさに殲滅。
アウシュビッツも真っ青。
溜まりゆく骸を掃いて片そうかとも思うが、
「いやいやムカデがこの仲間の死骸を見てショック死するくらいがいいのかもしれん」。放っておくことにする。
死骸はくるくると丸まり、小さいペロペロキャンディーのようである。
この頃になると、お隣の壁にもムカデが大量に発生していたので、
「うちだけじゃないんだな」と妙に安心し、神の兵器"虫コロリ"の事を教えて上げた方がいいんじゃないかと、変に悩む。
(虫コロリのキャッチコピー"名前の分からない虫にも!"の素晴らしい安心感。)
旦那には「今日から私の事はムカデハンターまりこと呼んでくれ」
と宣言するが、「さっきからそれを何遍言ってんだ」と冷たくあしらわれる。
6/8(月)雨
連日のムカデ殺しの祟りか、体調が悪くなる。
どうも熱っぽく、関節も痛いようだ。
このところの連日の雨による夏風邪かもしれないが、
ムカデハンターは今日はお休みして、寝ることにする。
6/9(火)晴
全ての謎が暴かれた日である。
つまりホラーはここからなのだ。
今までのは序章だ。
前日の旦那の看病のおかげもあり、
昼過ぎまで寝ていたらだいぶ熱っぽかったのも治まって来た。
昨日出来なかった買い物などの用事を済ませる。
晩御飯の支度をしようと、
いつものように炊飯器の釜に、流し台の下の米びつから2合、米を掬って入れる。
救った時、なんで今日の米は繋がってるんだろう?
と不思議に思う。
米って普通パラパラしてるよね?
納豆でもないのに、さっきからなんで繋がっているのかな...。
水を入れて、洗う。
なんかプカプカ浮いて来た...次から次に...。
数秒後、ここ数日間のことが一気に合点がいった。
推理ものの映画のクライマックスのような気分だ。
あいつら全部、ここで孵化して、排水溝から流れ出て、壁に這い上がって来たんだ...。
意外と、一言も叫ばなかった。
瞬時に全てを理解して、完全に無表情で真顔だったと思う。
落ち着け...落ち着くんだ。
一旦一呼吸置くための、旦那とのLINEのやりとり↓
私「ムカデの原因、うちの米びつだったお。無農薬の米から湧いてるお」
旦那「ひいたお^_^」
落ち着いて、ムカデを流し終わったら、
もともと作るはずだった"炊飯器で作れる簡単トマトピラフ"を
その米で作った。ムカデハンターは大分サバイバルな脳になっている。
しかし帰ってきた旦那は米びつを覗いて、
「それ...食べるの?僕はあんまり食べたくないなあ...」
とあくまでやんわり断った。
私は、一口食べて捨てた。
混ぜ込んだ材料の黒胡椒が...なんだかそれに見える。
うちのせいとあってはご近所にご迷惑おかけして申し訳ない!
さっきまで同じムカデ被害者だと思っていたけど、
ご近所さんになんの非も無く全てうちの責任とあらば、
知られないうちに必殺仕事人として一匹残らず殲滅させるのが
ムカデハンターの役目だ。
前日寝まくったせいもあって、夜全然眠くならない!
眠れないなあと数時間布団で寝返りを打っていたら、
ついに空が白んで来たので、夜明けと共にムカデの虐殺開始。
しかしこいつら...あっという間にでかくなるなあ。
数日前湧出したばかりなのに、でかいのはもうそれなりの太さ。
虫コロリが効かなくなったら、どうしようもない。
小さいうちに、やらねば。
朝日の中でムカデを殺しまくって、気分は
「自分の不手際で世にゾンビをはびこらせてしまった科学者が、
罪滅ぼしにゾンビを根絶やしにしようと戦うが、いろいろと危機を乗り越えて
朝日の中最後の一匹を倒す」そんな感じ。
成仏してください、ムカデくん達。
(※冒頭部分で虫コロリ持って住宅街をうろついてる理由は、
「やっぱどこを見渡してもあんなにムカデがいる壁なんつーのはないんだな...」と確認する為です。)