昨日、誕生日だったので母からメールが来た。
「おめでとう、でも残念なお知らせがあります」
何だろう、と思ったら、
私と母がしょっちゅう行っていたお店がなくなってしまうそうなのだ。
そのお店は本当は自然素材の手作り服屋さんなのだが、
お客さんが待っている間に奥さんが料理を出していたら、
ほとんどそっちがメインになってしまった。
母はそこで遊牧民みたいな服を何着か仕立ててもらい、
よく着てるけど、私は一着も作ってもらったことはない。
あの空間であの食事をして時間を過ごすのが好きだったのだ。
お店は古民家で、食器も手作りの焼き物。
食材も、良くはしらないけどきっと天然素材なんじゃなかろうか。
現代っぽいケミカルな物が一ミリもない。
最近はリノベーションって流行ってるから
古民家をおしゃれ風にしてるお店もそこそこあるけど、
そういうのもない。飾り気ない素朴さ。
私が高校一年生の時に母がその店を見つけて来て、
それからかれこれ15年くらい通い続けてる事になる。
もう人生の半分はその店と関わってるのか。
感慨深いなあ。
しかしお店は一度移転した事がある。
最初お店は北九州にある風師山という小さめの山の
中腹にひっそりとあったのだが(そっちのが好きだったなあやっぱり...。)
作家の佐木隆三が気に入って建物ごと買い取ってしまった。
私もあのお店のぴょこっと出た出窓から見える関門海峡の眺め
好きだったんだけど、きっとあの風景を独り占めしたくなったんだな。
ちょっと天空の城ラピュタみたいだもんなあ、小高い所から海と町が見渡せて。
あそこなら文筆業はかどりそう。
丸ごと買い取っちゃう気持ち、分からなくもない。
と言うわけで、お店は今度は山口県の山の中に移ってしまった。
でも、相も変わらず古民家の中は手焼きの食器に火鉢、真空管ランプのついたラジオ、まきをくべるストーブ、木を削りだした椅子、どんどんロウソクを載せ続けまるでチョモランマのようになったロウの山とかがあって(ああ思えばあれが岡にもなってない標高10センチ未満だった頃から知ってるな。今では50センチくらいに大きくそびえ立ってる)、店主の恵子さんのメニューも変わらずそこにあり続け、
私は帰省する度に母やおばあちゃんとその店に通い続けていたのだ。
母に「あ、お店に予約するの忘れちゃった」と言われたら
良い年をして本当に不機嫌になってブーブー文句垂れるし、
本来は営業日でもないのに無理矢理お店を開けてもらったこともある。
(そんで数時間は喋り続け居座る。なんて客だ。)
でも高校の頃から知ってるとは言え、
そこの店主の恵子さん、会話内容が気に入らない客がいると
「帰って下さい」と追い返す事もあるらしい。
それを聞いて以来「今日は追い返されないだろうか...」と
内心ビクビクしていたけど、まあ今の所一度も追い出された事は無い。
私たちが喧々諤々で会話してると、
料理を運びながら会話に混じったりしてくれる。
ずっとあって欲しかったな〜欲を言えば風師山のラピュタのまま。
くそう佐木隆三め。(今wikiで調べたら出身高校が同じだった...先輩だったのか)
今回のお店を閉める理由は、
服を作る旦那さんが奄美大島に住みたくなった為らしく、
出会って初日から同棲してます、というそのご夫婦は
来年春から2人で移住しちゃうらしい。
母はうらやましがっている。
私は淋しがってる、今。