私は今後も節分の度にあの大学四年の節分を思い出す気がする。
大学四年の時、私は同じ少林拳法のサークルだった五人のアホな同級生とつるんでいた。
其の中の一名の家に入り浸り、ゲームしたり映画見たり漫画読んだり、なんか適当に食べたり、
トランプでギャンブルしたり、基本常に下らない会話に享受するという、
まあいわゆる大学生っぽい時間を過ごしていた。
2004年の二月三日、その節分の日は、
誰からともなく「そうだ、恵方巻きを食べよう」という話になり、
夜になってから近所のマルキョウというスーパーに全員でそぞろ歩いて行った。
しかし、もう恵方巻きは売り切れていた。
でもなんとしても節分は恵方巻きを食べなければならない。
一から作る時間や金はない。
無いものをどうやって生み出すか。
ここで大学生のアイディア力が試される。
うーむ。
寿司コーナーに、にぎり寿司が並んでいた。
「これを改造すれば良いのではないか?」
誰の発案か忘れたがなかなかの発想だ。
我々は焼き海苔と握り寿司のパックをいくつか買い、
Yの家に戻った。
そして、オペ開始。
寿司の再構築を行った。
寿司を具と酢飯に分解し、
海苔のシートの上にころんと酢飯をのせ、
つぶして広げる。
均一に伸ばした後は、
乗っかっていた具を中心に一列に並べ、
棒状に丸める。
、、、まあ一応、恵方巻きと言えなくもない気もする。
習わしでは、其の年の方角を向き、一気に食べねばならない。
その際、一言も喋ってはならないのがルール。掟だ。
五人でその似非恵方巻きをベランダかなんかの方を向いて、
黙々と食べだしたのだが、
いざ始まるとものすごくシュールな光景で、
私は腹の底からこみ上げる笑いが止まらなくなってしまった。
さっきまでいつも通りゆるいテンションでボケたりつっこんだりしていたのに、
急にシーンとなって同じ方角を向いて、
口をもぐもぐさせている。
普段、五人もいると誰かが常に喋っているので、
なかなかシーンとすることもない。
な、なんかがおかしい。
一向に私の恵方巻きだけが短くならない。
皆はさっさと食べ終わり、日常に帰って普通に談笑している。
本当にすごいなあと思った。
私だけ、給食が食べれなくて昼休みまで居残りさせられる子供のように
ずっとベランダの方を向いて
解体された謎の寿司をじわじわ食べさせられていた。
もの凄く長く感じた。
あの時、「大勢で同じ方向を向いて黙々と不思議な食品を食べる」っていうのが
自分にとってツボなんだなあと、気付いた。
なんかあの時の空気感を忘れない気がする。