おせちの罪

高校生の時、友達がお寿司屋さんの娘だったので、
正月にうちでおせち作りのバイトに来ないかと誘われた。

行ってみると、そこには彼女の親戚などもたくさんいて
皆で分担しておせちを作っていた。

伊勢海老をほぐす人、卵を割る人。
私は茶巾蒸しを作る係りになった。
良く覚えていないが、
ガーゼみたいな布の上に、
本体になる白身魚すり潰したものみたいなのを置いて、
さらにタケノコやギンナンなど五種類くらいの
具材を入れて、きゅっと絞って出来上がり。

しかし、それら具材の中に一つ、
大の苦手の肉があった。
細かく切っているが、
おそらく鶏肉を茹でた物。
脂身とかもついてる。

う、、、と最初我慢してたけど、
駄目だった。
触れない。
肉を意識すると、
ふ〜っと気絶しそうになる。

途中から入れているフリをして、
全部避けていた。
私が作った茶巾は具材五種類入れるところが、
四種類しか入っていない。

じゃあ、他の係りと変わればいいのに、
それを言えない強情な性格。

「鶏肉が触れません」との
弱音が吐けないのだ。

六畳くらいの部屋で、
真ん中のテーブルに茶巾の具材などを一面に広げて
立って作業をしている。

最初、五人とかそういう人数で作っていたのだが、
「こっちで誰か卵割って〜」とか要請があり、
次第に人数が減り、
茶巾係は私とその寿司屋の友達の親戚の優しそうなお兄さんと、
おっとりした弟の三人になった。

肉抜き茶巾を作り続けていることの
罪の意識にだんだんと耐えられなくなった私は
さっきから鳥肉を抜いている事を二人に告白した。

「実は、、、さっきから肉入れてないんだよ」

シーン。

二人は当然「えっ、、、(^_^;)」とびっくりしたようだったが、
特に咎めもしなかった。
その後どうなったか覚えていない。


結局、その二人にしか言ってない。
その年のあの寿司屋のおせちを注文した人、
本当にすみません。

今なら大人になったので、
鶏肉何とか触れます。

バイト代は、普通に貰って普通に使った。